劇場は命薬(ヌチグスイ)
2014国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ
―沖縄市、那覇市、東京三都市で開催―
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士
2014年7月26日から8月3日にかけて、「2014国際児童・青少年演劇フェスバルおきなわ」が沖縄市、那覇市(コザ)、東京で「劇場は命薬(ヌチグスイ)」(注1)のテーマのもとに開催された。
パンフレットの中で、アシテジ(国際児童青少年演劇協会)会長イヴェット・ハーディーさんはこう述べている。
「演劇は何世紀にもわたり、もっとも回復力があり、それゆえにもっとも力のあるコミュニケーションと表現の手段のひとつとして存在してきました。多くの人が歴史の中で何度も演劇の死を訴え、演劇人はしばしば創作において大きな妨害を受けてきました。
昨年(2013年)からの困難な状況にもかかわらず、このフェスティバルは、そこに情熱と信念を持つ人々がいる限り演劇には常に命があることを証明してみせました。今年10周年の節目を迎えるこのフェスティバルは、児童、青少年、そして彼らの家族の命にとっての命薬としての演劇の力の証であり、それゆえに決して死ぬことはないのです。
事実、フェスティバルが受け入れることを余儀なくされた障害は、結果としフェスティバルの開催地を沖縄市、那覇、東京へと拡大し、(熟練した庭師によって剪定されたバラの茂みのように)新しい場所に蕾を出させることになりました。」(抜粋)
また、総合プロデューサー下山久さん(注2)はパンフレットの中で、
「今年のフェスティバルはコザ、那覇、東京と広がりますので、正式名称の「2014国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ」として開催いたします。「劇場は命薬(ヌチグスイ)」のテーマのもと、心豊かな時間を過ごしていただくことが私たちの何よりの願いです。」と述べている。
- (注1)劇場は命薬(ヌチグスイ)
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「劇場は命薬」は“フェスティバルおきなわ”の基本思想である。パンフレットで次の通り述べている。
「ヌチグスイとは・・・沖縄方言で「命の薬」「長寿の薬」という意味です。
クスイはクスリでもただの薬ではない。心の薬、心の栄養剤のことです。感動的な舞台を観たあとなど、「ああ、今日はヌチグスイしたさあ!」と声に出します。
沖縄では「命どぅ宝(ヌチドゥタカラ)」いう語もよく耳にします。戦争体験や苦難の歴史から学んだ血のにじんだ黄金言葉(こがねことば)です。どんなに辛い境遇でも勇気をふるって命だけは守らなければならない、という先人からの教訓です。そして、このだいじな「宝もの」をささえてくれるエネルギー源
が「命薬」です。
沖縄戦から生き残った難民収容所の人びとは米軍缶詰の空き缶でカンカラ三線を発明して「命ぬ御祝(ヌチヌウユエー)をやりました。鉄の暴風で肉親をうばわれ祖国までうしなった敗残の人びとにとって、あのカンカラ三線のひびきはまさに「命薬」でした。そして、沖縄が世界に誇る琉球芸能の復活を告げる産声でもあったのです。」
- (注2)下山さんのこと
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おきなわの国際児童・青少年演劇フェスティバルを永年にわたり企画制作してきたのは、国際的プロデューサー下山久さん(エーシーオー沖縄代表)である。
下山さんをもっともよく知る鈴木稀王氏(元文化芸術推進フォーラム事務局長)からフェスティバルが終わってからメールをもらった。この中で下山さんのことが書かれているので紹介したい。「ちょっとご無沙汰しております。新たなる取り組みとしての沖縄『フェスタ』(コザ、那覇新都心と東京公演3カ所開催)無事閉幕のメール便りを、事務局からいただきましたので、その一部分を通信します。『台風12号の影響で、会場や公演日時の変更もありましたが、台風になれている県民性か?大きな混乱もなく無事に終了致しました。台風で船に五日間も閉じ込められた人形劇団や台風の返し風で、野外のベトナム水上人形劇のセットが壊れたり・・・チケットセンターも、急な公演変更の電話対応におわれました。会場変更の誘導を受付ボランティアの皆さんが頑張ってくれました。舞台スタッは、時間がないなか、美術館の中庭でやる予定の公演を急遽、那覇国際高校に作ってくれました。初めての那覇会場、しかも劇場は一つもなく全てが架設劇場という中で、(もちろん楽屋も架設)スタッフは大変だったと思いますが、皆楽しそうでした。お客様の笑顔に出会えるからだと思います。閉会式の「クロージングパーティー」では、例年通り1団体、一芸が続き喜びに溢れた会となりました。皆さん、別れがたかったようで何時までも懇談の場が続いていたようです。毎年の事ですが、海外劇団は、スタッフが素晴らしいと誉めて下さいます。下山さんは、「このフェスタの誇りは、スタッフです。」と答えてました。また、全ての公演が終わり会場のバラシの後、舞台、音響、照明スタッフのお疲れさま会があり35名位参加しました。関係者から「昨年までの会場と違う環境、台風にも、関わらず建て直しの速さ、フェスタを継続させる力、世界のフェスティバルの中でもこんなにも、劇団を丁寧に受け入れるフェスティバルはない、スタッフはもっと誇りを持っていい」と誉めて下さいました。スタッフ、一人一人の挨拶に台風でフェスタが終わってから到着した、『チョコとチップ』の劇団の人が、スタッフのお疲れさま会に参加したのですが感動して泣きながら、この場にいれて良かった。と言ってました。総合舞台監督の津嘉山さんが、愚痴も山のようにあるけど・・・下山さんには、死ぬまで、このフェスタをやり続けて欲しい。心肺停止になったら、皆で蘇生させてでも続けさせよう。また、津嘉山さんが「このフェスタを愛してる人!」と聞いたら、全員が手をあげたので、思いがけずとても感動しました。あんなに大変だったのに皆、明るく楽しい会でした。フェスティバルは、多くの人の支えがないと、開催出来ない事を、改めて思いました。そして、京都の照明会社の関さんが言っていた言葉を思い出しました。「こんなに、愛されているフェスティバルはないよ」と。語っていました。一般社団法人ACO沖縄理事長、大城安恵より。』
三都市で行われた全プログラムは次の通りである。
- 木のリズム(ドイツ・フランス)
- スノーアイズ(デンマーク)
- 沖縄燦々(日本)
- 石・棒・折れた骨―Mr.バンクの魔法のガラクター
- ファンタジックコメディ大道芸 ―ケンとヒロとおかしな泥棒(日本)
- ひょっこりひょうたん島―オンステージ(日本)
- あ・シルク(日本)
- バルトロメオ(スウェーデン)
- 明和電機メカニカル・ミュージック「ヒゲ博士とロボット」(日本)
- りんがりんが(フィンランド)
- 飛べイカルス(ベルギー)
- 玉城家の酒じょーぐー~狂言附子・棒縛りより~(日本)
- 音楽劇 はらっぱのおはなし(日本)
- GABEZ show(日本)
- THE BODY TIGHTS MEN SHOW(日本)
- くわぱぷー(ベルギー)
- マシェンカとくま(ロシア)
- 夢をつむぐ童話~歌われる詩たち~(日本)
- ゴールデンドラゴン―水上人形劇(ベトナム)
- スズの兵隊(アルゼンチン)
- ボクのお人形(アルゼンチン)
- 女王の子~コーカサスの白鳥の輪~(アルゼンチン)
- オムツ党走る(日本)
- まぶしい恋唄(日本)
- うちのワイフ(日本)
- チップとチョコ(日本)
また、シンポジウム「アーティストの価値と経済的評価」「ドラマ教育のアジアの現状とゆるやかなネットワークの構築」「平和構築のための児童・青少年演劇の役割」、ワークショップ「飛べ イカロス」が開催された。
棚野正士 wrote:
文中の鈴木稀王さんの肩書が「元文化芸術推進フォーラム事務局長」となっていますが、正しくは「元日本音楽家ユニオン職員」です。ご了承下さい。