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平成4年第125回国会衆議院文教委員会及び参議院文教委員会における参考人・斉藤博教授の意見

(私的録音録画問題基本文献として会議録から再録)

IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士

 私的録音録画に関する報酬請求権制度を導入するための「著作権法の一部を改正する法律案」は平成4年(1992)11月26日に衆議院文教委員会、12月1日衆議院本会議、12月7日には参議院文教委員会、12月10日参議院本会議で審議され、いずれも全会一致で承認され、12月16日、法律106号として公布された。

 11月26日の衆議院文教委員会(伊藤公介委員長)には、鳩山邦夫文部大臣、政府委員として吉田茂文部大臣官房長、佐藤禎一文化庁次長が出席した他、斉藤博筑波大学教授・著作権審議会委員、石本美由起日本音楽著作権協会理事長が参考人として出席した。
又、12月7日の参議院文教委員会(松浦功委員長)には、鳩山邦夫文部大臣、政府委員として野崎弘文部省初等中等教育局長、佐藤禎一文化庁次長が出席した他、斉藤博筑波大学教授・著作権審議会委員、乙骨剛日本レコード協会会長が参考人として出席した。

 平成4年(1992年)11月26日衆議院文教委員会及び同年12月7日参議院文教委員会における斉藤博参考人の意見は、私的録音録画問題の原点であり、20年近くの年月を経ても未だに色あせぬ、いや、今こそ検証しなけばならない基本理念であると考える。私的録音録画問題を考える上での基本文献として再録する。

第125回国会衆議院文教委員会(平成4年(1992)11月26日)における参考人斉藤博教授の意見陳述(質疑応答部分は除く)
(同文教委員会会議録から)

○伊藤委員長

 この際、ただいま御出席になられました参考人各位に対し、一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、大変御多用中のところ、本委員会に御出席をいただきまして、大変ありがとうございました。
 参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせをいただき、審査の参考にいたしたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。斉藤参考人、石本参考人の順にお一人20分程度の御意見をお述べをいただき、その後、委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますけれども、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人は委員に対し質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承を願いたいと存じます。
 それでは、斉藤参考人にお願いをいたします。

○斉藤参考人

 ただいま御紹介いただきました筑波大学の斉藤でございます。
 日ごろより我が国の著作権法制につきまして熱心に取り組んでいらっしゃいます先生方の前でお話しできますことは、まことに光栄でございます。
 本日は、私的録音・録画問題につきまして、私見を申し上げたいと存じます。
 この際、三つの点に分けましてお話しさせていただきます。第一点は、複製技術の拡散、広がるという意味でございます。第二点としまして、国際的動向。第三点目としまして、我が国の対応。このように三つに分けましてお話をさせていただきます。
 まず第一点でございますが、著作物や実演、レコードを複製する技術は目覚ましい勢いで開発され、普及しつつございます。今や録音機器、録画機器、文献複写機器などさまざまな機器に接することができるようになったのでございます。しかも、音声情報にいたしましても、映像や文字情報にいたしましても、オリジナルをそのまま複製できる度合いと申しましょうか、コピーの忠実度というものもますます高くなってきたのでございます。その上、複製機器の小型化、低廉化も達成されつつございます。かつてでございますと、個人では到底手の届きませんでした機器も、今や容易に購入することができるようになりました。機器のみではございません。テープなどの機材につきましても、今回の法案におきましては記録媒体という用語にいたしてございますが、この媒体の性能もますますすぐれたものになっております。それに応じまして、家庭など私的な領域におきましても、他人の著作物を複製する機会が急速にふえてきたのでございます。
 このような動きは、従来ございました玄人と素人の区分を徐々にあいまいなものにしてきているのでございます。かつてでございますと、レコードなどのソフトは玄人が提供しまして、素人はその製品なりソフトを購入し音楽等を鑑賞していたわけでございます。ところが、今や素人であります一般のユーザーも性能のすぐれた複製機器をみずから保有いたしまして、玄人の製品に匹敵する複製物をつくり出すようになったのでございます。その限りにおきまして、今や玄人と素人が混在する時代と申すことができるように思います。
 確かに複製技術の拡散は個人の文化生活を豊かにしつつございます。しかしその一方、その豊かさが著作者や実演家、レコード製作者への配慮を欠いたまま享受されるということになりますと、それは妥当とは申せないのでございます。そこで、拡散されました複製技術の活用を抑えることなく著作者等の利益の保護にも意をいたす道を模索することになるのでございます。
 第二点としまして、国際的な動向でございます。そのうち、まず諸外国の状況につきまして簡単にお話しさせていただきます
 複製技術の拡散にいち早く対応いたしましたのがドイツでございます。既に1965年法におきまして、著作者等の権利者は録音または録画機器の製造者なり輸入者に対しまして報酬を請求できる制度を導入しております。その後、やや間を置きましてオーストリアが、複製機器ではございませんで、今度は録音用テープ、録画用テープにつきまして同様に報酬を請求できる制度を設けております。さらにハンガリー、アイスランド、フィンランド、ポルトガル、フランス、イタリア、スペイン、オランダなど、制度の具体的な内容はさまざまではございますが、報酬請求権制度がヨーロッパの諸国を中心に導入されつつあるのでございます。アメリカも本年10月、法案の可決、成立を見まして、過日大統領の署名もなされています。今や諸国が問題解決のために大きく動き始めていると申すことができるように思うのでございます。
 次に、著作権法の国際的な規範でございますベルヌ条約との関係で若干お話を申し上げます。
 この私的録音・録画問題につきまして、国際著作権界の支柱でございます、柱でございますベルヌ条約は直接の規定を設けているわけではございません。しかしながら、同条約の9条2項によりますと、複製権を国内法で制限することは認めますものの、著作物の通常の利用を妨げ、著作者の正当な利益を不当に害しないことを求めるただし書きをも設けているのでございます。今の時代のように、性能のすぐれました複製機器が一般の家庭等に普及いたしてきますと、条約の面からも利益の調整、すなわちユーザー、権利者両者の利益を調整します報酬請求権のような制度が必要となるように思うのでございます。
 さらにWIPO、世界知的所有権機関と訳しておりますが、このジュネーブにあります機関におきましても著作権法のモデル規定の案が検討されました。まだ成案を見ておりませんが、その案によりますと、視聴覚著作物、オーディオ・ビジュアル・ワークスでございますが、この視聴覚著作物、それに録音物、これを私的使用のために複製することを認めますと同時に、相当なる報酬の支払いが必要である、このように記されております。
 第三に、我が国の対応でございます。
 私的録音・録画問題に関する我が国の検討は非常に長うございます。著作権審議会が第5小委員会を設けまして、この問題を検討し始めましたのが昭和52年10月でございます。その後、一たん著作権資料協会に設けられました懇談会で自由な討議を行いまして、再び著作権審議会第10小委員会におきましてこの問題を検討したのでございます。そうしまして、同第10小委員会が結論を出しましたのが平成3年11月、著作権審議会の総会がこれを承認しましたのがその翌月でございます。
 このように見ていきますと、我が国は既に長きにわたりましてこの問題の検討を重ねてきたのでございます。その間、御委員会からも、機会がありますごとに報酬請求権制度の導入など抜本的検討を進めるよう附帯決議をいただいてきたところでございます。
 このような長い年月の間には、複製に関する技術も一段と開発されまして、新しい技術も徐々に普及しつつございます。とりわけコンピューター時代に対応いたしまして、さまざまな情報が急速な勢いでディジタル化されつつあるのでございます。一たび情報がディジタル化されますと、その情報の複製は極めて容易、迅速に行うことができます。これまでの何百倍、何千倍あるいはそれをはるかに上回る情報量でございましても、簡易な方法で極めて短い時間に複製することができる時代に至ったのでございます。
 複製物の質の面におきましても、オリジナルとの間に差異が認められないのでございます。違いが認められないのでございます。加えて、複製物の質が劣化しない点、さらにはその複製物からさらに第二の複製物を作成することもできるわけでございます。そして、この第二の複製物の方も質が高く、これまた劣化しないということでございます。このように考えますと、従来に比べ数段も飛躍しました技術を用いる時代に入っていると申すことができるように思うのでございます。
 そのようにすぐれた技術であれば、当然活用する必要がございましょう。しかし、その一方におきまして、著作者等の権利者の利益を不当に害することにならないよう配慮しなければならないところでございます。ユーザーと権利者の間の利益をどのように調整するのか、その調整の方法にはさまざまな道がございましょうが、我が国におきましても、このたび一つの具体的な案が示されるに至りました。
 その案を見させていただきますと、長い年月をかけただけのことはあるというのでございましょうか、ディジタル時代にふさわしい、国際的にも新しい規定を見ることもできます。あるいは国際著作権界に誇り得る考えも盛り込まれているように思います。
 一つ例を申し上げますと、この法律案の30条の2項、新たに加えられます2項によりますと、「録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。」このように、録音または録画を行う者が何がしかの金銭を支払うように、このように書いてございます。これは他の先進諸国がなそうとしてできなかった規定でございます。
 大分古い話でございますが、ドイツが1965年法を制定するに際しまして、その前に政府草案が出されました。これによりますと、やはりユーザーが報酬を支払う、こういう規定になっていたのでございます。しかしその後、果たしてそのユーザーが直接任意に支払うだろうか、さらには家庭に法律が介入するのはプライバシーの保護の点でもいかがなものか、こういう消極論が出まして、結局のところは製造者または輸入者がその種の報酬を支払う、こういう規定に落ちついたところでございます。
 これは、アナログ時代におきましては、確かにこの種の規定、実行するに難しいところかもしれません。しかし、ただいまのようなディジタル時代に入りますと、状況は一変してくるように思います。情報がディジタル化されているということになりますと、今度それに対応しまして、ただいま研究段階でございますけれども、プリペイドカードとかデビットカード、こういうカードをハードに挿入しまして、そしてどの曲を録音したかあるいはどの絵を録画したか、こういうことがカードで読み取ることができます。そのカードを集計しますと、具体的に個々のユーザーがどういう曲をあるいはどういう絵を複製したか、これが記録として残るわけでございます。これに応じましてユーザーが報酬を支払うということになりますと、具体的な、個別的な利用に応じました報酬を支払うという、ある意味では理想的な形になるわけでございます。ただいまは研究段階でございます。しかし、ディジタル技術の開発を考えていきますと、その種の技術の実用化もそう遠い先のことではないと思うのでございます。この規定の起草者はそこまで見越してお書きになったのであろうか、その辺は定かではございませんが、しかし、この種の規定、ディジタル化時代には最も先端を行く規定になるのではないか、このように思います。
 当面は第二段階としまして、特例としまして、機器それから記録媒体のメーカーに協力義務を課しまして一括処理する、一括補償金を徴収する、こういう仕組みにいたしているようでございます。こういう二段構えの非常に現実的な規定を設けましたということは、極めて敬服に値することであろうかと存じます。
 それから、もう一つ、国際著作権界にも誇り得る考えが盛り込まれているということを申し上げましたが、これは内国民待遇を当然の前提としてこのような案をおつくりになったということでございます。外国の権利者も我が国民と同様に保護していこうということでございます。外国の権利者の中にはかなり手前勝手な考えをお持ちの方もいらっしゃると存じますが、我が国は外国人もひとしく保護していこう、こういうことでございます。これはやはり国際著作権界における我が国の地位をさらに高くするものであろうかと存じます。
 なお、付言させていただきますが、ディジタル方式による録音・録画につきまして、ユーザーと著作者等の間の利益調整を金銭によって行う今回の案でございますが、これはディジタル複製を一世代に限るとする技術的制限を前提にしていると申すことができるように思います。
 最後に、我が国がこの私的録画問題を解決できますと、国際著作権界におきまして、テクノロジーの面、文化の面、両面におきまして先進諸国としての地位をますます高くすることは確かでございます。
 簡単でございますが、説明とさせていただきます。(拍手)

第125回国会参議院文教委員会(平成4年(1992)12月7日)における参考人斉藤博教授の意見陳述(質疑応答部分は除く)
(同文教委員会会議録から)

○委員長(松浦功君)

 これより参考人から意見を聴取いたします。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます
 皆様には、御多忙中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
 当委員会では、著作権法の一部を改正する法律案の審査を進めているところでございますが、本日は、本案に対し皆様から忌憚のない御意見を聴取し、本日の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
 つきましては、議事の進め方でございますが、まず斉藤参考人、乙骨参考人の順にお一人15分程度御意見をお述べいただき、その後、各委員の質疑にお答えをいただく方法で進めてまいりたいと存じます。
 それでは、まず斉藤参考人よりお願い申し上げます。

○参考人(齊藤博君)

 ただいま御紹介いただきました齊藤でございます。御丁重なごあいさつ、ありがとうございます。
 平素より我が国著作権法制につき心を砕いていらっしゃいます先生方の前でこのようにお話しできますことは、まことに光栄でございます。
 本日は、私的録音・録画問題につきまして私見を申し上げたいと存じます。
 三つの点をお話しいたします。第一点は、複製技術の活用と著作者等の保護、第二点といたしまして、国際的な動向、そして第三点といたしまして、我が国の対応でございます。
 まず、第一点の複製技術の活用と著作者等の保護でございます。
 今世紀の後半に至りまして、著作物や実演、レコードを複製する技術は目覚ましい勢いで開発され、普及しつつございます。その勢いは今なお弱まる気配がございません。しかも、そのような技術が専門家の間のみではなく、一般の者が家庭などにおきましても容易に手にすることができるようになったのでございます。テープレコーダーやビデオレコーダーなどの複製機器にしましても、テープなどの機材といいましょうか記録媒体にいたしましても、小型化、低廉化がなされつつあるからでございます。
 今や音声にしましても映像にしましても、家庭などにおきまして質のよい複製物、市販のソフトに匹敵する良質の複製物をつくる時代に入ったのでございます。これまでのいわゆる玄人と素人の間の役割分担といいましょうか、レコードなどのソフトは玄人が提供し素人はそれを購入し鑑賞するという区分があいまいになってきたのでございます。複製技術が家庭等に広まることによりまして、個人の文化生活も大いに豊かになってきたことは確かでございます。
 ところが、市販のソフトを購入せずにコピーで間に合わせることになりますと、著作者や実演家は著作物等の利用の対価を得る機会を失うことになります。市販のソフトの原価には著作物や実演を利用した対価が含まれているからでございます。コピーで間に合わせるというのでございますから、ソフトの売れ行きにも影響が出まして、やがてはソフトの製作者もその事業から撤収せざるを得ないことになります。その結果、著作者、それに実演家もみずからの成果を世に出す主要なチャネルの一つを失うことになります。
 このようなあたりへの配慮といいましょうか著作者等への思いやりを欠いたままでございますと、短期的には確かに個人の文化生活が豊かになりましても、長い間にはその国の文化は枯渇していくように思われます。今の時代に求められていますことは、複製技術がすぐれたものであればあるほど、それをせつな的に用いるのではなくしてバランスを保って用いる方法を探し出すことでございます。
 そこで、先進諸国を中心に、すぐれた複製技術の活用を抑制することなく、あわせて著作者等の利益の保護にも思いをいたす制度が模索されることになるのでございます。
 第二点といたしまして、国際的な動向をお話し申し上げます。
 そのうち、諸外国の例からお話し申し上げます。
 複製技術のバランスのとれた活用に最も早く注目いたしましたのはドイツでございます。既に1965年法におきまして、著作者等が録音または録画機器の製造者なり輸入者に対しまして報酬を請求できる制度を導入しているのでございます。その後、やや間を置きまして、1980年代に入りますと、ヨーロッパの諸国を中心に次々とこの種の制度が導入されております。
 まずオーストリーが、複製機器ではございませんで、録音または録画用テープにつきまして報酬請求の制度を設けております。さらに、ハンガリー、アイスランド、フィンランド、ポルトガル、フランス、スペイン、オランダというヨーロッパの諸国のほかに、コンゴ、オーストラリアも制度の導入を果たしております。90年代に入りましてもその勢いは衰えませんで、ブルガリア、チェコスロバキア、イタリア、デンマーク、ベルギーと続きまして、アメリカも過日、導入を決定いたしております。今や諸国が複製技術のバランスのとれた活用を求めて大きく動き始めていると申すことができるのでございます。
 次に、ベルヌ条約につきまして触れさせていただきます。
 一世紀余りにわたりまして国際著作権界を支えてきましたベルヌ条約には、この私的録音・録画問題につきまして直接の規定は設けられておりませんが、同条約第9条第2項は、複製権を国内法によって制限することは認めますものの、同時に著作物の通常の利用を妨げず、著作者の正当な利益を不当に害しないことをも求めているのでございます。すぐれた複製技術が家庭等に普及するようになりますと、条約の面からも複製技術のバランスのとれた活用、ユーザーと権利者の間の利益調整が必要となるように思われます。
 もう一つ、ジュネーブにございますWIPO(世界知的所有権機関)の作成しましたモデル規定案につきまして言及させていただきます。
 この著作権法のモデル規定案におきましても、私的使用のために録音物なり視聴覚著作物、オーディオビジュアルワークスと呼んでおりますが、この視聴覚著作物を複製することは自由としながらも、同時に相当なる報酬の支払いが求められております。
 第三点としまして、我が国の対応でございます。
 我が国は、この私的録音・録画問題につきまして既に長い年月にわたり検討してまいりました。昭和52年10月、著作権審議会第五小委員会がこの問題の検討に着手しましてより、途中、著作権資料協会における検討を挟み、著作権審議会第十小委員会が結論を出しましたのが平成3年11月、同審議会の総会がこれを承認しましたのがその翌月でございます。我が国は、既に十数年の長きにわたりましてこの問題の検討を重ねてきたのでございます。その間、御委員会からも数次にわたり、制度的対応の検討を進めるよう附帯決議をいただいてきたところでございます。
 この長い年月の間にはデジタル複製の技術も開発されました。コンピューター処理に合わせまして、今やさまざまな情報がデジタル化されつつございます。情報は一たびデジタル化されますと、その複製は極めて容易、迅速に行うことができるのでございます。巨大な量の情報でございましても、デジタル化されておりますと簡易な方法で極めて短い時間に複製することができます。複製物の質もオリジナルとの間に差異が認められないのみか、劣化しないというのでございます。そのような複製物からさらに第二の複製物を作成することもでき、その方の質も高く劣化もしないというのでございます。今や複製技術に関しまして、我が著作権法制は全く新しい局面を迎えようとしているのでございます。アナログ複製につきましてさえ、著作者等の保護に意をいたさなければなりませんときに、デジタル技術の普及をも目の前にしているのでございます。このすぐれた複製技術を活用しつつ、同時に著作者等の権利者の利益を不当に害することのないよう、一層の配慮をしなければならないところでございます。
 ユーザーと権利者の間の利益をどのように調整するのか、その方法にはさまざまなものがございましょうが我が国も一つの解決案を見出し、このように法律案に接することができるに至ったのでございます。この法律案には、デジタル時代にふさわしいといいましょうかデジタル時代だからこそというのでございましょうか、国際的にも新しい規定が盛り込まれております。国際著作権界に誇ることができる考えも盛り込まれております。
 法律案第30条第2項は、録音または録画を行う者、すなわちユーザーが補償金を支払わなければならない旨定めております。ユーザーが支払う旨の規定は、これまで諸国が書きたくても書けなかった規定でございます。果たしてユーザーが任意に支払うであろうか、法律が家庭に入るのはプライバシーの保護の点でいかがであろうか、こういう消極論に遭いまして、諸国は、複製機器なり記録媒体の製造者や輸入者が支払うという、いわゆる次善の策をとらざるを得なかったのでございます。
 ところが、デジタル時代に入りますと状況は一変します。新たな技術的手段を用いることができるからでございます。例えば、複製機器に特定のカードを挿入しまして、これに複製しました個々の著作物や実演、レコードを読み取らせる方法をとることも技術的には可能になりましょう。もちろん、複製の記録をおさめたカードを回収しまして集計する機関には高度の守秘義務が求められましょうが、ユーザーによる録音なり録画の頻度を個々の著作物や実演、レコードごとに把握することができるのでございます。当面は、複製機器なり記録媒体の製造者や輸入者を介しまして補償金を包括的に受ける措置をとらざるを得ませんが、今回の第30条第2項の規定案はデジタル時代を先取りしたものと評することができるように思います。
 もう一つ、今回の法律案が外国の権利者をも我が国民と同様に扱おうと内国民待遇の考えを盛り込んでいますこと、この点も高く評価できるところでございます。
 なお、今回の案は、デジタル方式による私的録音・録画につきましてユーザーと権利者の間の利益調整を金銭により行うものでございますが、これはデジタル複製を一世代に限るとする技術的制限を前提にしていると申すことができます。
 最後に、今回我が国が新しい複製技術のバランスのとれた活用に一つの解決を示すことができますと、国際著作権界におきましても技術の面、文化の面両面におきまして先進国としての地位をますます高めることは確かでございます。
 以上でございます。

以上

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