「JASRAC概論―音楽著作権の法と管理―」
(紋谷暢男・編。日本評論社・発行)
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士
社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC:船村徹会長・加藤衛理事長)は1939(昭和14)年の創立以来、2009年11月18日で70周年を迎えた。
2009年11月18日、グランドプリンスホテル赤坂で、鳩山由紀夫内閣総理大臣夫妻他多数の来賓を迎え、創立70周年記念祝賀会を盛大に開き大成功をおさめた。
JASRACは創立70周年を記念して、二つの貴重な著作物を世に出している。「JASRAC70年史―音楽文化の発展を願って」(JASRAC発行)と「JASRAC概論―音楽著作物の法と管理」(紋谷暢男編・日本評論社発行)である。
「JASRAC70年史」だけでなく、「JASRAC概論」を出版したことは、JASRACの組織運営理念の確かさとそれを支える知的レベルの高さを伺わせる。JASRAC当局の志の大きさを感じる。
ここでは、「JASRAC概論―音楽著作権の法と管理―」の概要を紹介しておきたい。
編者・紋谷暢男教授は「JASRAC概論」の“はじめにー音楽文化とJASRAC”の中で、
「日本音楽著作協会は通常JASRAC(Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers)と称され、1932年(昭和7年)以降のプラーゲ旋風の結果1939年(昭和14年)に成立した「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号)に基づいて同年末に設立された。歌詞、楽曲に関する仲介業務を掌る日本最初の社団法人である。以来、同協会は2001年(平成13年)に著作権等管理事業法が制定されるまで、62年にわたり日本で音楽著作権を管理する唯一の団体として活動してきた。著作権等管理事業法が制定された以降、他の著作権管理団体との競争下にあっても、確実な歩みを継続してきた。」
「JASRACは今年、創立70周年を迎えた。そこでかかる時代においてこそ、JASRACが蓄積してきた著作権管理のスキームや、日本国内外において果たしてきた役割などを検証することは、日本の著作権法を理解し、今後の発展を予見するうえにおいても有意義なものと思われる。」
と述べている。
本書は学問的側面、実務的側面、両面から著作権管理スキームの全体像を知る上で極めて重要な文献であり、第一級の学者、法律実務家によって執筆されている。目次からは次のような章立てになっている。
- はじめに
- ―音楽文化とJASRAC― 紋谷暢男(成蹊大学法科大学院教授)
- 第1章
- JASRAC誕生の経緯と法的環境 大家重夫(久留米大学名誉教授)
- 第2章
- JASRACが管理する権利 上野達弘(立教大学准教授)
- 第3章
- JASRACへの音楽著作権の信託 鈴木道夫(弁護士)
- 第4章
- JASRACの音楽著作権管理 市村直也(弁護士・弁理士)
- 第5章
- 著作権侵害とJASRACの対応―司法救済による権利の実効性確保 田中 豊(弁護士・慶應義塾大学教授)
- 第6章
- 国際条約と日本国著作権法 岡本 薫(政策研究大学院大学教授)
- 第7章
- 音楽産業とその関係者―著作隣接権とはー 前田哲男(弁護士)
- 第8章
- 著作権をめぐる今日的課題―著作権制度を抜本的に見直す必要性と文化政策 斉藤 博(弁護士・新潟大学名誉教授)
第3章(鈴木道夫弁護士)の文中にコラム「もしもJASRACがなかったら」(104ページ)があり、その中で、「音楽がなかったら生きていくことができないと言い切るとしたら、“もしもJASRACがなかったら”という問いかけは、この世に水や空気がなかったらという問いと同義語なのかもしれない。」と書かれてる。
日本の音楽文化と音楽産業、そして著作権法を70年にわたって支えてきたJASRACの存在を改めて再認識する。
以上