幻の名著「小林尋次著:現行著作権法の立法理由と解釈―著作権法全文改正の資料としてー」 (昭和33年3月文部省発行)
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士
著作権研究者のための“幻の名著”が平成22(2010)年11月第一書房から再刊された。それは、昭和33(1958)年文部省から出版された小林尋次(こばやし・ひろじ)著「現行著作権法の立法理由と解釈―著作権法全文改正の資料としてー」である。
“幻の名著”といわれるこの本の再刊に尽力された大家重夫教授(久留米大学名誉教授、元・文化庁著作権課課長補佐、著作権課調査官)は再刊の意義についてこう述べている。
「昭和45年著作権法は(中略)、ここ約40年の間、法改正に追われている。社会の変化は激しく、まだまだ著作権法改正が続くであろう。
ところで、こういう現行著作権法のもとで、その条項の意味は何か、どういう経緯で、この条項が新設され、削除されたか、その立法趣旨は何だったか、など問題になることが多い。
調べてみると、旧著作権法時代に設けられた条項、それも特に昭和6年改正と昭和9年改正に淵源を持っているものが多い。」
「内務省警保局図書課に昭和3年から昭和10年まで事務官(現在の課長補佐に相当か)として勤務された小林尋次氏は、昭和6年改正と昭和9年改正を担当され、本書『現行著作権法の立法理由と解釈』を著され、昭和33年文部省の大田周夫著作権課長の手によって出版された。
上述のように、旧著作権法のよき解説書、参考文献が求められる時、幻の名著とされていた本書を刊行することの意義は、非常に大きいと考える。」
小林尋次氏は本書執筆の動機について、「現行著作権法の解釈詳細と、私自身の手掛けた改正条項の立法趣旨並びにその経緯の詳細を書き綴ることにした。」と述べ、本書執筆のねらいについては次のように記している。
「以下本文に述べるところは、現行著作権法の改正経緯を詳述して、著作権法解釈並びに運営の適正を念願すると共に、これを詳述するに当ってどうしても必要と考える著作権の根本義を、立法者たりし立場から述べることを主眼とする。著作権法の解釈並びに運用の適正を期するためには、著作権の根本義に関する理念を先ず統一してかからねば法文解釈の論争が結論に達しないことを特に指摘しておきたい。これらと合わせて、古くより私の考えていた現行著作権法全文改正の方向を説明して置きたい。」
このような考え方に立脚して、「第一章 著作権の本質論」が記述され、以下、「第二章 著作権保護の沿革」「第三章 著作権保護の客体(著作物論)」「第四章 著作権保護の主体(著作者論)」「第五章 著作権(財産権)の内容」「第六章 出版権の設定」「第七章 私益と公益の調整」「第八章 著作者人格権」「第九章 著作権侵害に対する民事上の救済方法」「第十章 著作権侵害の刑事上の責任」と詳述されている。
小林尋次著「現行著作権法の立法理由と解釈―著作権法全文改正の資料としてー」(昭和33年文部省発行)はまさに“幻の名著”に相応しい研究者必読の書であり、大家教授の尽力により本書が再刊されたことの意義はまことに大であると考える。(注:再刊は第一書房、定価4000円)
以上