2012国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ 「キジムナーフェスタ・2012」
(2012沖縄 第1回アシテジ世界ミーティング)
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士
1.「劇場は命薬(Theater is NUCHIGUSUI)」
今夏2012年7月28日から8月5日まで沖縄市で「キジムナーフェスタ・2012」(国際児童・青少年演劇フェスティバル)が開催された。8回目となる2012年のテーマは「劇場は命薬(ヌチグスイ)」である。そのコンセプトは「『命どう宝』は沖縄の心。どんな困難の中にあっても、命を守り、継いでゆく。『命どう宝』を支えてくれるのが『命薬』。『命薬』は心を、命を育てる。」ことにある。
「劇場は命薬(Theater is Nuchigusui )のテーマの下に世界中から劇団、パーフォーマンスグループ等が集い、招待作品56作品、自主参加作品31作品、合計87作品が市内15会場で上演された(各作品の上演時間は60分未満なので、一日に5本見ることができた)。参加国を見ると、日本の他フランス、カナダ、ベトナム、ポーランド、韓国、スペイン、ロシア、イギリス、台湾、クロアチア、インド、デンマーク、エストニア、中国、イタリア、南アフリカ、イスラエル、イラン、ケニア、オーストラリア、ブラジルなどの実演芸術家たちが参加した。
また、作品上演の他、セミナー、アートマネージメント講座、シンポジウム、ワークショップなどが数多く開催された。
このフェスタの主催は沖縄市、エーシーオー沖縄、NPO法人ITF沖縄、NPO法人沖縄県芸術文化振興協会、沖縄市「文化芸術による創造のまち」支援事業実行委員会である。主催組織を統括しキジムナーフェスタ全体を企画、制作、運営しているのは、プロデューサー下山久氏(エーシーオー沖縄代表)である。児童演劇にその生涯を賭ける世界的プロデューサー下山久氏の永年の努力と強い情熱がなければ、このフェスティバルは生まれてないし、継続していない。
下山氏の筆者宛てメールにこう書いてあった。「お蔭様で、台風の影響はありましたが無事に閉幕する事ができました。閉幕式では、世界の演劇人たちが「劇場は命薬(ヌチグスイ)」というテーマのもと「児童青少年演劇の未来のための沖縄宣言」を発表して『劇場はまさしくヌチグスイだ。世界中のすべての子どもたちが、劇場の素晴らしさを味わい、劇場で育つようにならなければならない。それが実現する日のために、私たちは努力を惜しまない』と誓い合いました。次代を担う子どもたちは、私たちの希望です。その子どもたちの笑顔を守りたいと、キジムナーフェスタに集った観客の皆様や出演者、スタッフの皆様が心から願っていると感じました。」
「子どもたちは希望です。その子どもたちの笑顔を守りたい」という思いは心を打つ。下山氏の強い思いがキジムナーフェスタを維持発展させてきた。また、その思いは、スタッフ、出演者みんなに伝わり、さらに街の角々にその空気が溢れていた(沖縄市の商店街は今はまさにシャッター街化しているが、このキジムナーフェスタによって、いずれシャッターが開くのではないかと感じる)。二本の台風に挟まれながらも、雨風を無視するかのように、お母さんやお父さんに連れられて、あるいは学校単位でフェスティルに参加した子どもたちはみんな生き生きしていた。中学生や小学生だけでなく、不思議なことにゼロ歳児の赤ちゃんまで上演作品から放たれる作品の空気に反応していた。
日本を代表する文化芸術県沖縄で児童・青少年のためのこのフェスティバルが開かれている意味は大きい。
2.2012沖縄 第1回アシテジ世界ミーティング
キジムナーフェスタは第1回アシテジ(国際児童青少年演劇協会。日本の世界理事は、ふじたあさやさん)世界ミーティングでもあった。アシテジ会長イヴェット・ハーディさんは挨拶でこう述べている(パンフレットから)。
「今年、世界最初のアシテジ・インターナショナル・ミーティングが沖縄キジムナフェスタで開催されます。この歴史的な日を迎えられることに大きな喜びを感じています。(略)フェスティバルの精神である「いちょりば ちょーでー(一度会ったら、人は皆兄弟)」。この言葉はアシテジの心であり、世界中から集まる多様なアーティストを結びつけるものです。そして、私たちが集う劇場は、地球上のすべての子どもたちが、想像力の世界へ出かける権利を保証するものです。キジムナーフェスタに心より感謝します。」
また、アシテジ日本センター会長内木文英さんはパンフレットで次の通り挨拶している。
「アシテジの皆さんを歓迎します。昨年のアシテジ世界大会で、第1回アシテジ世界ミーティングを「オキナワ」で行うとの発言があり、大きな拍手が湧きました。私は1996年、ロシアのロストフ・オン・ドンでの大会から、世界大会に出席し、世界の仲間たちが、児童青少年文化を向上させるために、熱心に活動していることを知り、心を動かされてきました。特に昨年5月のコペンハーゲンとマルメの大会で、「オキナワ」という言葉を聞き感動しました。昨年、日本は、地震、津波、原子力発電事故に苦しめられ、何がどうなるかわからぬような状況でした。日本の「オキナワ」を会場に、「第1回世界ミーティング」を企画されたことに感謝し、アシテジの仲間たちを大歓迎します。」
3.アシテジ世界ミーティングとは
世界ミーティングについて、ウェブ上でアシテジはこう説明している。
「世界ミーティングの『ミーティング』は“会議”ではなく“集う”という意味の『ミーティング』です。期間中は、多くのセミナーやシンポジウムが世界中の専門家により企画され、平和構築のための青少年演劇の役割、次世代、乳幼児のための演劇、障害とアート、災害とアート、伝統と現代、国際共同制作など、児童青少年演劇を取り巻く様々な課題、テーマについて、世界中から集まった参加者が意見を交換します。また、日本、そしてアジアの伝統文化を学ぶ実践的なワークショップも行われます。もちろん、舞台作品の上演も、日本、アジア、その他の地域から、選りすぐりの素晴らしい作品を集めてお届けします。(略)第2回アシテジ世界ミーティングは2013年オーストリアのリンツで、そして、二つの世界ミーティングを総括する形で2014年にポーランドのワルシャワでアシテジ世界大会が開催されます。」
アシテジ「沖縄宣言」
「キジムナーフェスタ・2012」(2012沖縄 第1回アシテジ世界ミーティング)最終日閉会式で、アシテジ世界理事ふじたあさやさんが下記の「沖縄宣言」を提案して満場一致で承認された。
児童青少年演劇の未来のための沖縄宣言
私たちは、2012年7月28日から8月5日までの9日間、ここ沖縄市で、一つの船に乗り合わせました。児童青少年演劇の、今を確かめ、未来を照らし出すために。
私たちはここで、世界中の仲間たちが、子どもたちのために、優れた芸術活動をしていることを知り、子どもたちと共にそれを楽しみました。
私たちはここで、そのような優れた芸術活動を支える理論とトレーニングの実際を学びました。
私たちはここで、明日の児童青少年演劇が、どのようなものになったらいいか、それには今日何をしたらいいのか、考えあいました。
私たちはここで、優れた舞台芸術が、戦争や災害といった人類の病気やけがを癒すのに、有効であることを学びました。『劇場はヌチグスイ』という今回のサブタイトルを、体と心で確かめることができたのです。
今日、私たちは宣言します。
『劇場はまさしくヌチグスイだ。だから、世界中のすべての子どもたちが、劇場の素晴らしさを味わい、劇場で育つようにならなければならない。それが実現する日のために、私たちは努力を惜しまない』と。
2012年8月5日
第1回アシテジミーテイング参加者一同
Okinawa Statement for the Future of Children and Youth Theatre.
From the 28th July to the 5th August 2012, 9 days in total, we have been onboard a ship to exam the current situation and to ignite the future of children and youth Theatre.
Here in Okinawa, we have found our colleagues working on magnificent artistic activities for children and shared wonderful moments together. In addition, we’ve learnt new skills to support such meaningful activities and experienced practical trainings. We have discussed the future of children and youth theatre and how our vision can be realized. We also assumed that the arts have the power to heal our scars from war and natural disasters. The theme, “Theatre is Nuchigusui”, has been proved by what we have done through over the past 9 days both physically and emotionally.
Today, we make this statement;
“Theatre is certainly Nuchigusui. Every child in the world needs to experience the power of theatre and have access to theater.
We will make every efforts to realize such a world for our children.
5th August 2012
Participants of the First ASSITEJ International Meeting.
(写真は「キジムナーフェスタ・2012」プログラムと今帰仁村の海)
棚野正士 wrote:
(C-Japanコメントと同じ)
「キジムナーフェスタ2012」公式ブログは“9日間ありがとうございました”という書き出しで、こう発表している。
「20ヵ国、85作品、228ステージと7つの国際シンポジウム、15のワークショップ・講演会、5つのセミナー、延べ30000人超の観客。キャスト、スタッフは海外、国内、県内を含め1000人を数える。また、展示は会場の一つであるコリンザ1階で、「アート・ノ・庭」「世界の子どもの本展」「児童演劇写真展」のコーナーを設けた。」
なお、追記すると芸団協(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会)は同会場で、東日本大震災子ども舞台芸術支援対策室と共同で、『東日本大震災への実演芸術支援(パネル展)』と題して、パネルと映像の展示を行い高い評価を得た
2013年は7月下旬開催予定と発表されている。