Culture First記者会見(第11回) 「新たな補償金制度創設に係る提言について」
2013.11.15
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士
Culture First(はじめに文化ありき)推進85団体による第11回記者会見「新たな補償金制度創設に係る提言について」が2013年11月14日開かれた。
Culture Firstは芸団協、JASRAC、日本レコード協会など85団体で推進されている“はじめに文化ありき”の運動である。記者会見の趣旨は次の通り述べられている。
「2012年11月の最高裁決定により、ほぼその機能を停止してしまった現行の私的録音録画補償金制度について、今般、文化審議会著作権分科会「法制・基本問題小委員会」の下に「著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム」が設置されるなど、この問題の解決に向けて取り組む環境が徐々に整いつつあるところです。
■私的録音録画補償金制度の見直しについては、2003年4月4日に行われた「文化庁:私的録音補償金制度見直しの検討」を皮切りに、2004年から2005年にかけては「法制問題小委員会」、2006年から2008年までは「私的録音録画小委員会」の場において議論が行われましたが、2009年に(株)東芝による録画補償金の支払い拒否による訴訟が提起されたことにより、検討の場が失われ、さらにその後も制度と実態の乖離が拡がり続けるまま、今日に至っています。そこで私たちはこの機会をとらえて、ユーザーの利便性向上に配慮しつつ、クリエーターへの適切な対価の還元を実現するための新たな考え方について提言を行いたいと考えます。」
新たな補償金制度創設に係る提言については次の通り提言している。
- 補償の対象は私的複製に供される複製機能とする機器、媒体、サービスの別を問わず、私的複製に供される複製機能を補償の対象とする。
- 新たな補償の支払い義務者は複製機能を提供する事業者とする私的複製に供される複製機能を構成する機器、媒体、サービス等の手段を利用者に提供する事業者を支払い義務者とする。
現在の著作権法では、私的録音録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならないと規定し(第30条2項)、支払いについては、特定機器又は特定記録媒体の製造者又は輸入を業とする者(製造者等)は、私的録音録画補償金の支払の請求およびその受領に協力しなければならないと定めている(第104条の5)。
ユーザーが支払い義務者でメーカーが協力義務者であるという法的構造になっている。この場合、メーカーの「協力義務」とは何か。確かに著作物、実演を私的録音録画する者はユーザーであり、メーカーが私的録音録画するわけではない。
しかし、私的録音録画に適する機器、機材を製造することは著作物、実演を使用することである。著作権の原則は、著作物、実演を使用する者が権利者に使用料を支払うことである。したがって、著作物、実演を使用するメーカーも支払い義務を負うと言える。この事を考えれば、メーカーの協力義務は実質的には支払い義務である。
こういう考え方はできないだろうか。支払い義務者はユーザーであり、メーカーはユーザーの支払いについて協力義務を負うが、それとは別に、メーカー自体の使用について支払い義務を負うという考え方である。
私的録音録画補償金は昭和52年に権利者団体が問題提起して15年かかった法制度である。著作権審議会では当初“メーカー悪者論”が支配的であったが、JASRAC理事長であった芥川也寸志さんが、「創り手、送り手、受け手という循環のなかにこそ音楽の営みが存在する」という趣旨の意見書を書いて、メーカーと権利者が対立していた著作権審議会の空気を変えた。
問題解決は当事者が対立するのではなく、当時者同志が協力して、問題と対立することである。メーカーにとっても権利者が敵ではなく、問題が敵である。
かつて、音事協尾木徹会長が「2012年新年の集い」で、近江商人の経営哲学「陰徳善事」に触れて、「三方よし」という考え方を紹介した。「三方よし」とは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」である。尾木会長(当時)の挨拶は私的録音録画問題を意識したものではないが、芥川さんの意見書を思い出しながら、権利が対立する法律問題は「三方よし」が有効だと思った。
「権利者よし、メーカーよし、世間よし」である。
強い当事者であるメーカーは日本の文化を守る“Culture First”の視点から私的録音録画問題を考えて頂きたい。