WIPO視聴覚的実演条約めぐる議論が前進、SCCRが外交会議再開の勧告を決定

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WIPO視聴覚的実演条約めぐる議論が前進、SCCRが外交会議再開の勧告を決定

 世界知的所有権機関(WIPO)の第22回著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)が6月15−24日にジュネーブのWIPO本部で開催され、視聴覚的実演の保護、権利の制限と例外、放送機関の保護について議論が行われた。視聴覚的実演の保護に関しては、10年以上にわたって議論が続いていた「視聴覚的実演条約」の12条(権利の移転)について加盟国の合意が成立し、9月に開催されるWIPO総会でSCCRとして外交会議の再開を勧告する方針を決定した。

 視聴覚的実演条約は1996年に採択された「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」が音の実演を対象とし、視聴覚的実演の保護が含まれていなかったため、WPPTを補完する条約としてSCCRが2000年に草案を策定したもの。同年12月には視聴覚的実演の保護に関する外交会議が開催されたが、20の条文のうち19の条文について暫定合意に達したものの、米国とEUの対立で権利の移転(実演家から製作者への権利の移転)に関する1条項について合意が得られず、最終的に条約の採択が見送られた。その後、SCCRおよびWIPO総会で同条項について検討が重ねられていた。

 今回のSCCRでは12条について米国、インド、メキシコが「加盟国は実演家が視聴覚的実演の固定に同意した場合、実演家と製作者の間で反対の約定がない限り、本条約が規定する権利は製作者が保有・行使し、または製作者に移転することを定めることができる」との妥協案を提示。EUなどがこの共同提案を支持し、合意が成立した。一方、12条を除く合意済みの19の条文については再討議しない方針を改めて確認し、9月の総会で2000年から中断している外交会議の再開を勧告することで最終合意した。

 このほか放送機関の保護に関しては、2012年のWIPO総会で外交会議開催の勧告を行うことを目指し、次回SCCRに合わせて2日間の非公式会合を開催して集中的に議論することなどを柱とする作業プランを採択した。

 一方、権利の制限と例外に関しては、視覚障害者をはじめとする識字障害者による著作物へのアクセスについて重点的に議論されたが、加盟国間の対立を解消することはできず、今回の結論文書をベースに引き続き検討を進める方針を確認するにとどまった。

(Intellectual Property Watch, June 24, 2011 他)

(庵研究員著)

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