欧州委がEU司法裁にACTAの合法性判断を要請、抗議運動の高まりで批准は不透明に

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欧州委がEU司法裁にACTAの合法性判断を要請、抗議運動の高まりで批准は不透明に

 知的財産権の執行のための国際的な枠組みとなる「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」をめぐり、欧州委員会は2月22日、EU法との整合性についてEU司法裁判所に判断を求めたことを明らかにした。

 ACTAは模倣品や海賊版の増加に歯止めをかけるため、日本と米国が2006年に提唱した構想で、昨年10月に日本、米国、カナダ、韓国、シンガポール、豪州、ニュージーランド、モロッコの8カ国が署名。閣僚理事会の承認を経て、1月26日にはEUおよびドイツ、オランダ、エストニア、キプロス、スロバキアを除く域内22カ国が条約に署名しており、近く欧州議会と各国議会でそれぞれ批准手続きに入ることになっている。

 しかし、欧州ではインターネット上の自由の制限を懸念する市民団体などによる抗議運動が急速に拡大し、一部の加盟国は批准手続きを凍結するなど先行きが不透明になっている。欧州委は知的財産権の執行基準を国際的に調和させるのがACTAの狙いで、既存のEUルールに変更を求めるものではないとの説明をくり返してきたが、署名に至るまでの交渉プロセスが不透明だったことも批判の的になっている点を踏まえ、ACTAの合法性について明確にする必要があると判断した。

 欧州委のデ・グフト委員(通商担当)は会見で、プライバシーや言論の自由といった基本的権利が制限されることへのEU市民の懸念は理解できるとしたうえで、「ソーシャルメディアなどを介して広がっている誤った情報や憶測ではなく、事実に基づいて議論されなければならない」と指摘。「知的財産権保護の国際的な基準を引き上げることがACTAの目的であり、ウェブサイトを検閲・閉鎖したり、ネット上の言論の自由を制限するものではない」と強調した。

 ACTAには当初、ネット上の著作権侵害対策の一環として、違法ダウンロードの常習者に対してネット接続を切断するなどの措置が盛り込まれていたが、EU側の強い反対でいくつかの条文が削除された。しかし、ACTAは通商条約と位置付けられているため一連の交渉は水面下で行われた経緯があり、欧州の市民団体などは十分な情報が公開されなかった点を最も問題視している。ACTAに署名したポーランドで1月末に大規模なデモが行われたのを機に抗議運動がEU全域に広がり、2月11日には域内のおよそ200カ所で一斉デモが行われた。

 こうした動きを受け、ドイツ、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ブルガリアなどは批准プロセスを凍結したり、批准を拒否する意向を表明。欧州議会でも違法ダウンロード対策やEU法との整合性を懸念する声が高まっている。シュルツ議長は独公共放送ARDとのインタビューで「インターネットユーザーの権利と著作権保護の適正なバランスが取れていない」と指摘。「現行の条約は良いものとは思えない」と述べ、ACTAの批准に難色を示している。

(European Commission Press Release, February 22, 2012 他)

(庵研究員著)

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