早期審査制度で環境技術の特許付与が迅速化、早期情報公開のリスクが活用を阻害=LSE研究報告

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早期審査制度で環境技術の特許付与が迅速化、早期情報公開のリスクが活用を阻害=LSE研究報告

 気候変動など地球規模の環境課題への対応が求められるなか、先進国を中心に、環境技術に関する特許出願に対して優先的に審査を行う制度を導入する動きが広がっている。11月末にスイスのジュネーブで開かれた知的財産権の専門家会合で、環境技術に関連した発明の特許審査を迅速化するための取り組みの現状について報告が行われた。

 環境技術特許の早期審査制度は2009年5月に英国で初めて導入された。
英政府によると、申請から特許付与までの期間は平均32カ月であるのに対し、「グリーン・チャンネル」と名づけられた同制度が適用された案件では平均8カ月と、審査期間が通常の約4分の1に短縮された。英国以外では豪州、韓国、日本、米国、イスラエル(以上、09年)、カナダ(11年)、さらに今年に入りブラジルと中国で同様の制度が導入されている。

 専門家会合では、貿易と持続可能な発展のための国際センター(ICTSD)の委託でロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)グランサム研究所のAntoine Dechezlepretre主任研究員が行った調査について概要が報告された。
Dechezlepretre氏はまず、環境に利益をもたらす発明に対する優先的な審査制度を通じて審査期間が大幅に短縮され、環境技術に関する高度な専門知識の伝搬が促進されていると指摘。とりわけ気候変動対策など、地球規模の課題に対する取り組みを進めるうえで大きなメリットがあると強調している。同氏はそのうえで、「環境技術」と認定するための要件について明確な基準がないため、「環境に利益をもたらす」「環境にやさしい」といった申請者側の主張を基に、当局者が案件ごとに判断しなければならず、早期審査制度が必ずしも適切に運用されていないケースもあると警告している。

 今回の調査によると、11年に環境技術特許の早期審査制度が適用された案件は豪州43件、日本220件、カナダ67件、英国776件、米国3,500件となっている。また、年間に申請された環境関連の特許出願全体に占める割合は英国が20%と最も高く、米国が8%でこれに続くが、残り3カ国はカナダ1.6%、日本1.4%、豪州は1%未満と、いずれも極めて低い水準にとどまっている。

 Dechezlepretre氏は企業の知財戦略担当者などに対するアンケートから、特許出願人は早い段階での出願と成果(情報)の公開がもたらす利益と弊害の「トレードオフ」に直面しており、これが早期審査制度の利用を妨げる最大の要因になっていると指摘。特許保護の恩恵と、研究成果が製品化されないリスクや公開した情報にただ乗りされる可能性を比較考量した結果、早期審査の申請を見送るケースが大部分を占めると分析している。

 一方、新興企業は主として資金調達のため早い段階での特許取得を目指すケースが多く、早期審査制度が積極的に活用されている。分野としては再生可能エネルギーを筆頭に、リサイクル、輸送など、気候変動に関連した技術が全体の半分以上を占めている。

 このほか今回の調査から、早期審査の対象となった案件では特許付与された割合が出願件数全体の平均を上回っていることが分かった。さらに早期審査で特許付与された環境技術は、通常の審査手続きを経た環境技術特許に比べて引用件数が2倍に上ることから、Dechezlepretre氏は同スキームが環境技術に関する専門知識の伝搬や発明の促進で一定の効果を上げていると結論づけている。

(Intellectual Property Watch, November 28, 2012)

(庵研究員著)

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