歴史的な名基調講演~近藤誠一氏と安藤和宏氏~

棚野正士備忘録

国際音楽家連合(FIM)・日本音楽家ユニオン(MUJ)主催
「ひろがる音楽ビジネスと音楽家の権利 International Conference on Online Music」

棚野正士(IT企業法務研究所)

 2015年12月16・17日、東京・青山の国連大学本部会議場で各国の音楽団体首脳たちが集まり標記の会議が開催され、「日本におけるオンラインビジネスに対する取り組み」「国際標準、国内法及びビジネスモデル:実演家の収入への影響」「実演家の利用可能化権の侵害:契約/法律に基づく各国判例紹介」「フェア・インターネットキャンペーン:欧州は例外か国際モデルか」「オンラインストリーミング:技術的及び法的側面から」「衡平かつ持続的なオンラインビジネスモデル:それぞれの見解」のセッションが行われた。
 初日セッションの冒頭、近藤誠一氏(近藤文化・外交研究所代表、元文化庁長官)と安藤和宏氏(東洋大学准教授)の基調講演が行われた。
 近藤氏は「21世紀の挑戦と機会―オンライン・ミュ-ジックのもたらす課題の意味―」と題して、「音楽の力」「現代とは」「今何が起こっているか:4つのキーワード」「近代の負の遺産」「将来に向けて」と広く高い視野に立った格調の高い名講演を行った。

 「将来に向けて」の中では、

  1. 技術の行方を注視⇒権利の保護、利益の適正分配、パイ自体の拡大に不可欠
  2. 社会変動の見極め⇒消費者のパワー拡大(低負担の要請)、配信業者の競争激化
  3. 国家の役割の再定義⇒法律・制度改革の能力とスピード
  4. 民間の水平方向協力⇒製作者、音楽事務所、プロダクション、放送事業者、配信業者、利用者の間の連携(パイの取り合いではなく、パイの拡大への工夫・協力は可能か)
  5. 創造性への投資⇒生実演の市場拡大

について講演した。

 今回の国際コンファランスでは開会に先立ち東京都交響楽団弦楽カルテットの演奏が行われたが、同交響楽団の理事長である近藤氏はこの演奏にも触れて、音楽の力は生演奏でしか味わえない、演奏する者と聴く者の緊張関係を失うことはできないと述べた。

 安藤氏は「実演家に衡平な報酬を」と題して、豊富なデータと長い経験を生かして「問題の所在」を抉り出して講演し、「実演家が衡平な報酬を確保するためには」として、「法改正の必要性」「ムーブメントの必要性」を強調した。  法改正の必要性について次の通り述べている。(安藤氏の講演レジュメから転用)

  • 著作権契約法の導入
     送信可能化のような独占的排他権に関しては、レコード会社と実演家間の交渉力の格差を是正すために、著作権契約法の導入が必要。
    著作権契約法を検討する際には、ヨーロッパ諸国が導入している著作権契約法が大変参考になる。なぜなら、これらの契約法は実演家に対する衡平な報酬の支払いの実現を目指しているからである。
     たとえば、オランダの新しい著作権契約法の条文を見ると、
    1. 実演家は、利用権の付与に対して衡平な報酬を受ける権利を有する。
    2. 実演家は、合意した報酬と利用者が取得する作品の利用からの収益が著しく不均衡である場合、追加的に衡平な報酬を受けとることができる
    という条項がある。
     実演家に対する終了権の付与(インドネシアの著作権法に導入)の可否も議論すべきである。
  • ム-ブメントの必要性
     実演家が衡平な報酬を勝ち取るためには、社会的なムーブメントを起こす必要がある。大々的なキャンペーンを行う必要がある。
     権利者団体で研究会やワークショップを開催し、他国の法制や実務に関する情報を収集し、ベストな立法政策を提言すべきである。

    上記の安藤氏の提案は今回の国際コンファランスで最も重要な課題ではないか。音楽家でなく全実演家にとって最重要課題である。
    「著作権契約法の導入」と「ム-ブメントの必要性」をこの会議のひとつの結論とすることで、「日本音楽家ユニオン30年」を記念する運動方針となるのではないかを考える。

    (注:国際音楽家連盟International Federation of Musicians(FIM)は音楽家の組合が加盟する国際組織。日本からは日本音楽家ユニオンが加盟し執行委員国を務めている。)

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