著作隣接権総合研究所の発足
棚野正士備忘録
棚野正士(著作隣接権総合研究所所長)
(本稿は社団法人日本芸能実演家協議会実演家著作権センター(CPRA)著作隣接権総合研究所所長の立場で、「CPRA news 第60号」に書いた小論である。――2011.7.27 IT企業法務研究所 棚野正士)
著作権法上の運動は、その前提として基礎的調査研究が求められる。「調査研究」、「問題提起」、「運動」という三つの要素が長い時間の中で融合して成果が醸成されていく。 例えば、「私的録音録画問題」は学者の学術的研究を受けて、昭和51年芸団協は問題提起し、以来15年かけて運動を拡大して平成4年に私的録音録画補償金制度の創設が実を結んだ。また「実演家の人格権」は昭和43年に文部省文化局長(当時)に芸団協が問題提起し、今は亡き俳優たちが世界的視野で基礎的研究と運動を重ね、以来35年を経て平成14年劇的に法制度導入がなされた。 「映画問題」は昭和36年ローマで作成された「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約」(ローマ条約)以来50年間実演家の喉に刺さった魚の骨である。刺さった小骨はローマ条約第19条(映画に固定された実演)「この条約のいかなる規定にもかかわらず、実演家がその実演を影像の固定物又は影像及び音の固定物に収録することを承諾したときは、その時以後第7条(注:実演家の権利)の規定は、適用しない。」という規定である。平成12年の「WIPO視聴覚実演の保護に関する外交会議」を経て未だに解決していない。いっそうの研究と運動が必要である。 端的に言えば、どのような課題であれ運動の前には調査研究がある。 平成8年に芸団協は「実演家の権利研究所」(所長 橋元四郎平顧問弁護士)を設置した。「実演家の権利」としたのは、「著作者の権利」に対等な権利として認識するからである。「の」に最小単位の思想が込められていた。 著作権法の中で、自然人の権利は著作者の権利と実演家の権利である。両者は人格権と経済権で構成されている。著作権法制度は、著作者の権利及び実演家の権利、そして事業者の権利としての著作隣接権の三つに分けて考えると整理しやすいように感じる。この場合、事業者の権利である著作隣接権の根底にあるものは実演家の創作性とその保護ではないだろうか。 また、「実演家の権利研究所」の「の」には、実演家の文化法的権利、社会法的権利にまで視野を広げたいというひそかな意図もあった。 しかし、この研究所はいつの間にか消えてしまった。 「調査研究」は土を耕し種を蒔き、あるいは苗木を植える畑しごと、山しごとであり、10年、20年あるいは50年先に豊かな芸能の森を創り出すための地道で苦しい手作業でもある。 CPRAは今年(平成23年)4月1日、事務局の一部門として「著作隣接権総合研究所」を発足させた。総合研究所は業務として、「広報課」も所管する。広報業務まで総合研究所が所管するというCPRAの発想はおもしろい。「広報」は 歴史の創造であり、同時に歴史の記録 であるからである。 CPRAという専門機構を包含する芸団協は公益法人改革を受けて、いま法人格を見直している。公益社団法人に視野を広げる流れの中で、新設された「著作隣接権総合研究所」も未来に向けて視線を確かなものにしなければならない。
以上
コメントを投稿する
※コメントは管理者による承認後に掲載されます。