ミニエッセイ:最近ハラの立つこと
棚野正士備忘録
「ご理解とご協力をお願いします」 「よろしくお願いします」 ームラ社会に流れる常套句ー
2013 春 知財忍者・青い竜
わたくしは毎朝西武池袋線で通勤する。電車が近づくとスピーカーががなりたてる。「今度到着する電車は最後車両が女性専用です。ご理解とご協力をお願いします。」 電車がホームに入ると、駅のスピーカーはまたがなる。「このでんしゃは、さいごびがじょせいせんようしゃりょうです。ごりかいとごきょうりょくをおねがいします。」 最後車両が女性専用であることは分かった。しかし、何を理解し何を協力するのだろうか。むかし、女性専用車両に飛び込んで恥ずかしい思いをしたことがあり、女性専用であることが分かるのはありがたい。でも、それ以上何を理解し、どう協力すればよいのだろう。 余計な言葉は加えず、「最後車両は女性専用車です」とひとこと言えば済むではないか。 電車はやがて出発する。また、スピーカーが響く。「ドアを閉めさせて頂きます」。”させて頂く“のではなく、勝手に閉めろ。「ドアを閉めます」と言えば済むではないか。一語でもアナウンスの言葉は少ない方が客にはありがたい。でも、「ドアを閉めさせて頂きます。ご理解とご協力をお願いします」と言わないだけ、まだましか。 わたくしは練馬駅で大江戸線に乗り換える。ホームで待っているとスピーカーががなりたてる。「間もなく電車が到着します。整列乗車にご理解とご協力をお願いします」。ご理解とご協力がなくても「整列乗車をお願いします」と言えば済むのに。“ご理解とご協力を”という言葉が耳触りとなる。客の耳には一語でも入る音が少ない方がありがたい。 「ご理解とご協力をお願いします」は駅だけではなく、羽田空港でも何かの折にその都度ご丁寧に言っていた。
ついでに言うと、TV番組で「よろしくお願いします」という言葉も氾濫している。トーク番組でも時事座談会でも、司会者は「よろしくお願いします」と付け加え、ゲストもみんな「よろしくお願いします」と応える。 「紅白歌合戦」を見ても、NHKアナウンサーが出演者やゲスト一人ひとりに「よろしくお願いします」と挨拶し、歌手たちも礼儀正しく「よろしくお願いします」と応じる。「よろしくお願いします」という常套句が潤滑油として場の空気を治めているかも知れないし、みんな仲良しのムラ社会ではそれによっておさまりがよくなるかも知れないが、TV画面を見ている、聞いている人にとっては耳障りになっているのではないか。音声に集中したい神経の妨げとなっているのではないか。
上のような常套句が氾濫する風潮を少しでも変えられないだろうか。ご理解とご協力をお願いします。よろしくお願いします。
以上
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